マチココロ

サッカー観戦と本業のお掃除、新潟のよいところを綴っています。

アルビレックス新潟

私たちはもう一度スタートラインに立てた。

2022年10月8日J2第40節ベガルタ仙台戦。他のクラブの試合結果により、この試合に引き分け以上なら自力で昇格を決められる。チケットは完売。今季最多の観客数になることは必至だった。
試合当日、ビッグスワンは観客で埋め尽くされた。バス乗り場も売店も入場待機列も長蛇の列で身動きを取ることも容易ではない。まるで何かのお祭りでも開催しているかのようだった。でも騒いでいる人はおらず、どことなく緊張感を纏っているように見える。
開場して席についたが試合が近づくにつれて自分の鼓動が早くなるのを感じた。いつも通り選手を出迎えて後押しをするも、選手たちのプレーにも硬さを感じた。

私でさえ、手先が冷たくなるのを感じるのだ。選手の重圧なんて想像ができなかった。落ち着いて試合に入ったが、20分を過ぎると硬さから小さなミスが重なり、ピンチを招いた。前半は両者譲らず、0−0で折り返す。

均衡が破られたのは64分。仙台のキーパーをすり抜けて入る弾道が見えた。待ちに待った先制点で伊藤コールから涼太郎コールに変わる。

先制点のおかげか徐々にパスとイメージが噛み合い始めた。69分には谷口のシュートがポストを叩く。73分三戸ちゃんの豪快なシュートがわずかに枠を外れる。追加点にはならなかったものの、細かくパスを繋ぎ、自分達のリズムを作っていく。
松橋監督は3枚替えを行い、ヤンくんに代えて秋山、泰基に代えてキャプテンゴメス、小見ちゃんに代えて松田がピッチへ送り出された。
その直後の77分、相手にクリアされながらもセカンドボールをしぶとく拾い続け、三戸ちゃんとゆずるんがスイッチしてクロス、相手に当たりながらも落ちてきたボールを涼太郎が反転してシュート。これがゴール。

昇格に向けて大きな追加点。アイシテイルニイガタの歌い出しで視界が霞む。でも、まだ試合は終わっていない。この試合の全てを焼き付けたい。私は涙が溢れるのを必死に堪えた。
91分、ゲデスと星くんが投入されると、94分自陣からのパスワークから抜け出すと秋山のパスをゲデスがスルー、松田のパスを最後ゲデスが決めて3点目で勝負あり。

ゲデスのゴールからの再開でセンターサークルにボールがセットされるが、出された直後に試合終了のホイッスルが鳴った。
昇格が決まったら自分がどんな感情になるか分からなかった。周囲は安堵の表情でようやく辿り着いたと笑顔だったが、私はホイッスルが鳴った瞬間、堪えていたものが溢れた。涼太郎が絶叫した瞬間も、ゴメスが膝をついた時も、円陣を組んだ瞬間も私の目には映っていなかった。ようやく視界が戻ったのは場内にJ1昇格を告げるアナウンスが流れた時だった。

ベガルタ仙台戦の前日、私は自分の過去のブログを読み返していた。

今のJ1に新潟よりも順位が低いところはない。順位で言えば、どのチームも新潟より強い。小さなミスも失点につながってしまう。個人技のある選手にいとも簡単にやられてしまう。それならば、1点取られたくらいで動揺している場合じゃない。相手より1点多く取る。そして勝つ。
折れない。折れない。折れない。
ある日突然、「降格」の2文字が現れた訳ではなく、静かに音もなく、私たちの足元まで近づいて来たような感覚がしている。2008年、2012年、2016年とはまた違うのだ。3回の降格危機の方がはっきりと苦しさを覚えた。最終節まで溺れてしまうんじゃないかって思うくらい息苦しかったし、吐き気もしていたし、毎試合自分の心臓がバクバクとうるさいほどに聞こえていた。でも、今年はまだスタジアムで一度も泣いていないように思う。どんな年よりも今年は絶望的な状況に違いないのに。大宮戦も広島戦も、札幌戦も目は乾いていて涙は出なかった。言葉も出なかった。
この状況で、諦めるとか見守るとか諦めないとか、どんな状況でも応援を続けるとか、議論が起きているが、私は原点に戻ろうと思う。
突如として降格の二文字とともに、ゴール裏には報道陣が殺到した。周囲には涙を流す方の姿も多くあったが、私はすぐに自分の気持ちが見つからなかった。
最下位にいる以上、この日を覚悟していたが、いざ来てみると実感は全く湧かない。目の前にいる愛するクラブはこの時点では何も変わっていないのだから当然のことかも知れない。選手に何て声をかけたら良いのだろう。そう思いながら、反対側のスタンドからゆっくり周回してくる選手をただただ眺めていた。
これが、新潟らしさなんだと思う。

2017年のブログは重たい言葉ばかりが並んでいる。あの時はずっと“どうして”という言葉が消えなかった。どうして失点してしまうのか、どうして勝てないのか、どうして、どうして。それでも前を向いて、歯を食いしばって一緒に戦おうとしていた。降格したらこのクラブがなくなってしまうかも知れない。全て壊れてしまうかもしれないという恐怖があった。
実際に降格したと実感したのは2018年の開幕戦の讃岐戦だったかも知れない。私はJ1に昇格してからサポーターになったから、映像を通して見てはいたものの、荒れたピッチ、空席が目立つ観客席。これがJ2なのだという印象が強烈だった。

私たちがいくら新たな気持ち、挑戦者の気持ちで闘おうとしても、ライバルチームはそれは許してくれない。
長きに渡りJ1にいたクラブだとリスペクトして頂きながら全力で対峙される。
まぶしいくらい強い気持ちでがむしゃらに向かって来るのだ。ファールも荒いプレーもたくさんあった。それも全て『闘っている』からだ。
私たちは選手よりも先に勝利を諦めていなかったか。
15年振りとなるJ2でのシーズンは第4節まで負けなしも、その後7節から4連敗・25節から6連敗を筆頭に敗戦を重ねてしまう。ホームであるはずのビッグスワンでは5ヶ月半も勝利できなかった。
わずか2ヶ月の間にキャプテン磯村選手のシーズン途中でのV・ファーレン長崎への移籍、鈴木政一監督の解任、木村康彦強化部長の解任、神田勝夫氏の強化部長就任、社長の今シーズン限りでの退任が発表される。
6月以降は勝ち点をなかなか積み上げることができず、31節には19位まで順位を落とした。
私の目には負のスパイラルに陥り、順位以上にチームはバラバラになったように見えた。
4連勝をして終了した2017年シーズンの最終戦、ビッグスワンを周回する選手たちを姿を見て、私はどんなに苦しいシーズンであっても一丸となって闘えると信じていた。
しかし一枚岩になっても昇格できるか分からない厳しいJ2リーグにおいて、私たちはあまりにも脆すぎた。
ハルヲスイングが心を繋ぐ
私たちは積木くずしのように何年も積み重ねては自分たちで壊してきた。そして迷子になり、過去のアルビレックスを知る選手たちに集まってもらった。
それでも昇格は叶わなかった。おとぎ話、新潟らしさをという見えないものにすがるのではなく、新しいアルビレックスを、アルビレックスのサッカーを作っていく転換期なのかもしれない。
2019年で失ったもの。2019年で見つけたもの。

J2リーグの戦いの中でのとまどいと絶望。繰り返される監督交代。2018年-2019年の2年間が今までのシーズンで一番苦しかったかもしれない。ブログも全身で叫んでいるような文章ばかり。昇格できない代償を選手や監督、スタッフに払わせている感覚がして、苦しくてたまならなかった。
大きな転換期となったのは間違いなくアルベル監督の就任だった。2020年-2021年にアルベル監督がポゼッションサッカーを浸透させた。新型コロナウイルスの感染拡大による過密日程やチームの完成度で上回れず、相手の対策を上回る対策を講じられないといったこともあった。選手の突然の離脱により、戦力を立て直せない時期もあった。それでもアルベル監督はアルビレックスの”新潟らしさ”を体現するためのスタイルを与えてくれた。

いつの間にか昇格の可能性が消えていた昨シーズンとは異なり、今シーズンは夏以降、目に見える形で順位が落ちた。昇格の可能性が低くなっていく中で、はっきりとした悔しさがあった。首位だった時間が今までで1番長かったからこその実感。そして1位という順位にいたからこそ、込み上げてくる感情。ぶつけたくなる言葉もたくさんあった。でも、飲み込むしかなかった。
42試合の長いシーズンの中では、アルビレックスだけではなく相手チームも成長する。対戦相手をスコアで上回れなかった。ただ、それだけだった。
昇格が消滅した直後の試合で私は何を見たかったのか。

スタイルを確立するだけでは勝てない。昇格できない。頭ではわかっていたものの、ではどうしたら昇格できるのか、この時点では分かっていなかった。

今年はアルベル監督の後を継承する形で松橋監督がコーチから昇格して監督に就任した。今年はキャンプ中にクラスターが発生して出遅れ、4試合勝ち星を挙げることができなかった。それでも5試合目のヴァンフォーレ甲府戦で初勝利。勝ち点を積み重ねていたが、アウェーのFC町田ゼルビア戦の直前に2度目のクラスターが発生した。夏には至恩のベルギー移籍もあった。でも今年のアルビレックスは怪我人が続出しても、新たなヒーローが生まれ続けた。相手に対策を講じられても、対策を対策で上回った。松橋監督がポゼッションにスピードを兼ね備えた“アルビレックスのサッカー”を確立してくれた。

アルビレックスは決して連勝に連勝を重ねた訳ではない。ターニングポイントとなる試合を全て勝利できた訳ではないし、負けた試合もある。J2リーグに順位ほどの実力差はない。それでも昨年までだったら勝ち点0になっていた試合を勝ち点1に、昨年までだったら引き分けていた試合を勝ち点3に変えることができた。連敗が一度もなかったし、敗戦の後の試合は必ず勝利した。ギリギリの戦いの中でどれだけ勝ち点を拾えるか。『目の前の敵が最強の敵』だと松橋監督が私たちに伝え続けてくれたことで、どんな試合でも目の前の一戦に集中して戦うことができた。
今シーズンの得点は73ゴールあるが、チームに二桁得点者はいない。でも、出場がなかったGK1名を除いて全員がゴールに絡んだ。みんなで積み重ねたJ2リーグ1位の得点数だ。

私は昇格が決まった瞬間、自分がどうして泣いたのか分からなかった。感情が爆発した訳でもない。でも、自分の中に浮かんだのは一緒に戦ってくれた監督、選手、サポーター、”みんな”の顔だった。苦しかった5年間を一緒に過ごした”みんな”の想いが報われて嬉しいのだと気づいた。

私たちはもう一度スタートラインに立てた。今はまだ日本で19位のクラブだけど、来年はJ1の舞台で戦える。
“アルビレックスのサッカー”がJ1リーグで通用するかは分からない。でも、私たちはクラブも選手もサポーターも新潟県の街も企業様も同じ方向を向いて一緒に戦っている。
厳しい戦いが待っているだろう。でも”みんな”がいれば今の私たちならきっと乗り越えられる。そう思えるんだ。

“みんな”でJ1に行こう。




-アルビレックス新潟

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マチ神奈川県川崎市在住、東京都調布市出身。
新潟に無縁だったアルビレックス新潟サポーター16年目、家事代行会社入社8年目。
サッカー観戦、本職のお掃除、サポーターとして経験したこと、新潟のよいところを書いてます。