マチココロ

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アルビレックス新潟

地獄の淵からもう一度掴んだ、私たちの“つなぐ”サッカー

2025年5月25日、J1リーグ第18節湘南ベルマーレ戦。前半戦のホーム最終戦を、私たちはどん底の精神状態で迎えた。

この日を迎えるまでのメンタルは、正直に言って本当にキツいものがあった。前節の第17節では、今後残留争いの直接的なライバルとなるであろう岡山に、何のいいところもなく完敗(前半のシュートはわずか2本)。さらに、水曜日のルヴァンカップ3回戦で、あれほど焦がれたタイトルへの戦いは幕を閉じた。あの舞台に立てない悔しさ。試合結果を見て、どうしようもない虚しさに襲われた。

まさに地獄を詰め込んだような1週間。そんな中で、すぐに次の試合が待っている。ただの1サポーターでさえ、これほどの切り替えの難しさを痛感したのだから、ピッチに立つ選手たちの苦悩は、想像を絶するものだったに違いない。
そして、その苦悩の深さを物語るかのように、試合当日には「22日に強化部とチームスタッフが緊急ミーティングを開いた」という衝撃的なニュースが入ってきた。

この試合の前まで、ポゼッション率はリーグ5位だった。数字だけ見れば悪くない。しかし、現場で、いや、テレビ画面越しでさえ、明らかに「つなぐ」ことよりも「蹴る」ことが増えていたように感じた。相手からボールを奪えば、シンプルに早く攻める。ぶっちゃけてしまえば、Jリーグのたくさんのチームがやっている、当たり前のサッカーだ。

だが、アルビレックスがそれをやろうとした時、決定的な「歪み」が生じたのだ。
相手に身体を当てられてボールを保持できない場面が目立って増えた。プレーに迷いが出ているのが大きな要因だろう。元々、私たちの選手たちは技術は高いけれど、フィジカルが突出して強いタイプは多くない。身体を当てられる前にいなすからこそ、相手を凌駕できたのに、今のジャッジ基準で判断が遅れて捕まってしまえば、ひとたまりもない。また、全員が裏を狙いすぎるあまり、効果的にスペースを使えない場面も散見された。

本来、アルビレックスのサッカーの根底にあるのは「つなぐ」ことだ。相手に身体を当てられる前に、パスと早い判断でいなす。ボールを繋いで、全員でゴールを奪う。
岡山に負け、ヴェルディに負けた時、「もう自分たちのサッカーを手放してしまったんじゃないか」と錯覚するほどの絶望感を覚えた。

「つなぐ」サッカーは、相手がプレスに来たタイミングでいなしてパスを出すからこそ、スペースが生まれる。そしてそれは、強い気持ちで繋がないと絶体絶命のピンチになりかねない、諸刃の剣でもある。弱気になって後ろでボールを回しているだけでは、ただ相手にボールを持たされてしまうだけ。

「保持」と「持たされる」は紙一重。だが、その意味合いは圧倒的に違う。私たちは、その「つなぐ」という本当の意味を知っているのだ。ハイリスクハイリターンかもしれない。それでも、このサッカーこそが、苛烈を極めるJ1で私たちが生き残るための、唯一無二の術だったはずだ。

緊急ミーティング後に開催された湘南戦で、アルビレックスは確かに「つなぐ」サッカーを取り戻していた。

20分にルイス・フェリッピに今季ベストゴールといってもおかしくないような、度肝を抜くロングレンジのシュートを決められた。あの瞬間、胸が締め付けられるような予感がよぎった。だが、そこで崩れることなく、選手たちは顔を上げ、パスを繋いでゴールを目指し続けたのだ。

相手を集めていなし、パスを出す。ワンタッチで相手を置いていく。何人もが流れるようにパスを繋ぎ、ゴールへ向かっていく。昨年からメンバーも代わり、精度・技術的な危うさも孕んでいた。それでも、テレビ画面越しでもハッキリと感じた。全員が同じ目線で、同じ方向を向いてゴールに向かっている。その一体感が、何よりも私たちを安心させた。

31分には谷口が同点ゴール。

71分には、まさに全員で崩し、最後に小見ちゃんが決め切って逆転。

あの瞬間、ビッグスワンの歓声がテレビから突き抜けてくるようだった。選手たちの爆発する喜び、その姿に、私も喜びを噛み締めた。

しかし、ここから何度も同点に追いつかれたのが、今シーズンの苦しい戦いを象徴している。残り時間約20分。私は固唾を飲んで画面を見守った。何度も危ない場面を迎えながらも、選手たちは全員が体を張り、泥臭く、必死にゴールを割らせなかった。

そして、ロスタイム4分を終えて待っていたのは253日ぶりのビッグスワンでの勝利だった。

試合終了のホイッスルが響いた瞬間、私はテレビの前で涙が溢れた。ずっと張り詰めていた心が、一気に解放されたようだった。

やっと涙が止まったと思ったら、今度は小見選手の涙のヒーローインタビュー。あの小見ちゃんがボロボロと涙を流しながらインタビューに応える姿を見てもらい泣き。私は胸がいっぱいになった。

試合後には、緊急ミーティングが実はキャプテンであるゴメスが選手たちの意見をまとめ、寺川強化本部長、樹森監督と話し合った結果だったことが明らかになった。

本来であれば、1選手が強化部や監督に直訴するという状況は、更なるチームの崩壊を招きかねない。楽観視できる状況では決してない。しかし、今のアルビレックスは、ゴメス行動がを起こさざるを得ないほど、本当に切羽詰まった、窮地中の窮地だったことが、容易に想像できた。

「蹴るのか、つなぐのか」。アルビレックスが選んだのは、やはり「つなぐ」ことだった。ボールを保持するスタイルを志向してJ1に昇格し、あのルヴァンカップの決勝でも、最後まで貫き通した、私たちのサッカー。この「つなぐ」という揺るぎない前提があるからこそ、ショートカウンターも生きるし、ロングボールも効果的に使える。

試合後にキャプテンと監督が抱き合っている姿を見て、みんなが一つの輪になって喜び合う姿を見て、そして、トンネルのセレブレーションを受ける小見ちゃんの姿を見て、きっと大丈夫だと思えた。このチームなら、このサッカーなら、乗り越えていける。

次の相手は名古屋グランパス。あのルヴァンカップ決勝以来の対戦となる。

私たちの「つなぐ」サッカーを貫き、みんなで勝利を掴もう。これからも私たちは信じ、共に戦い続ける。

【追記】
DAZN観戦だったため、現地の写真は以下のお二人より頂戴しました。
ありがとうございました!

アイキャッチ写真
へうげさん(@huge1973alb)

本文内写真
SHOさん(@yhz04675)




-アルビレックス新潟

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マチ神奈川県川崎市在住、東京都調布市出身。
新潟に無縁だったアルビレックス新潟サポーター16年目、家事代行会社入社8年目。
サッカー観戦、本職のお掃除、サポーターとして経験したこと、新潟のよいところを書いてます。