マチココロ

サッカー観戦と本業のお掃除、新潟のよいところを綴っています。

アルビレックス新潟

2人の監督の現在地

2025年5月3日J1第14節FC東京戦。

ビッグスワンでの初勝利、そして今季初の連勝がかかったこの試合は、重要な意味合いを持っていた。

アルビレックスサポーターにとって、前監督である松橋力蔵との対戦は、特別な思いがあった。

アルベルト前々監督が基礎を築き、松橋前監督がそのスタイルを昇華させた新潟のサッカー。

私たちは、共にルヴァンカップ準優勝の先の景色を見られると信じていた。しかし、続投の返答をシーズン終了まで保留したことにより、監督探しに遅れを取った。ギリギリの監督人事はサポーターに複雑な思いを残し、今シーズンのチームの行く末に一抹の不安を抱かせた。

私の両親がFC東京のサポーターであるのもあり、私はFC東京の試合を注視してきた。松橋監督がどのようなサッカーを志向するのか、古巣であるアルビレックスとの対戦で、どのような戦略を仕掛けてくるのか。期待と懸念が交錯する中で当日を迎えた。

ゴールデンウィーク唯一のホームゲームとなったこの試合には、多くの両チームサポーターが来場した。
選手紹介のアナウンスに続き、松橋力蔵の名前がコールされる。
スタジアム全体を包む温かい拍手。その中に、確かに混じるブーイング。私は、その複雑な感情こそが、サポーターの率直な心の叫びだと感じた。

新潟らしかぬ快晴に恵まれたスタジアムをコレオグラフィが彩る。

試合は開始早々の8分にFC東京が先制。連戦による疲労の影響か、アルビレックスの選手たちの動きは重く見えた。ジェイソンがサイドに頻繁に引き出され、守備に奔走する場面が目立った。秋山からの効果的なパスも少なく、攻撃の形を作れない。

後半立ち上がりにもFC東京に完全に崩され、0-2となる。状況を変えるため、樹森監督は58分に笠井とダニーロ・ゴメスを投入。笠井の初ゴールで反撃の兆しを見せるも、奥村のシュートがポストを叩き、そのこぼれ球を拾われ高速カウンターが発動。82分に3失点目を喫した。99分にダニーロ・ゴメスがリーグ戦初ゴールを決めたが、反撃は及ばず敗戦となった。

年に2回、FC東京サポーターである両親と試合前にスタジアムで顔を合わせるのが、私たち家族のルーティンだ。しかし、その時はお互いに今日の試合のことには一切触れない。「勝つ」「負けない」といった安易な言葉は、決して口にしない。お互い腹の底では本気で勝つつもりだからだ。

試合終了後、歓喜に沸き立つアウェイゴール裏のスタンドを見た時、両親が「シャーシャーシャー!」と叫び、勝利の喜びを爆発させている光景が目に浮かんだ。正直、複雑な感情がないと言えば嘘になる。しかし、今日の悔しさは、きっと両親との対戦に敗れたことだけが理由ではない。

松橋監督の志向するサッカーではなく、FC東京のサッカーで負けたことが悔しかった。
コーチ時代から数えて4年。どうしたら個の力を組織で打開できるかというサッカーを一緒にやってきた監督に、個の力で新潟のサッカーをねじ伏せられたことが悔しかった。

3失点目の高速カウンターは、わずか12秒、パス一本でゴールに結びついた。
両親も間違いなく大好きな、実にFC東京らしい、効率的で破壊力のある得点だった。

マルセロ・ヒアンのゴールを実にFC東京らしいと表現したが、FC東京らしいサッカーたらしめるのは、選手や監督だけではない。私は、サポーターの存在が大きいと考えている。期待するプレーには自然と歓声が湧き上がり、それが選手を後押しする。高速カウンターはFC東京の確立されたスタイルであり、1失点目と3失点目はその典型と言える。一方、2失点目には、松橋監督がチームに植え付けようとしている新たなスタイルの萌芽が見られたのかもしれない。

正直に言って、松橋監督の目指すサッカーは、まだ発展途上なのだろう。
本来マルセロ・ヒアンに課したい守備のタスクを、他の選手がどのように補完するのか。それはFC東京にとっての喫緊の課題だろうし、繋ぎたい場面でボールが繋がらない場面も見受けられた。後半のロスタイムには、GKの野澤選手に対して蹴るな(こうやってボールを繋げ)と激しい指示が飛んでいるのが分かった。新潟時代、松橋監督のそんな姿を見たことはなかった。

両チームの完成度は、現時点では伯仲しているように見えた。
交代策に目を向ければ、樹森監督が送り出した2人の選手がゴールを奪っており、その手腕は評価されるべきだろう。しかし、最終的に勝利を手にしたのは、マルセロ・ヒアン選手という、個で打開できる選手を起用した松橋監督だった。勝負の世界の残酷さを、改めてまざまざと見せつけられた試合だった。

でも私たちはまだ何も失っていない。新潟のサッカーを見失ってはいけない。

パスを繋ぎ、状況に応じてやり直しながら前進する。GKも積極的にビルドアップに関与する。美しいパスワークには自然と拍手が起こり、サイドの果敢な仕掛けには大きな歓声が沸き上がる。

昨シーズンのサッカーは対策が明白だった。
だからこそ、樹森監督は相手の対策を打破するサッカーを模索している。試合中、選手に迷いが生じてしまうかも知れない。でも、その迷いがチャンスを潰し、ピンチを増幅させていく。

どんなに苦しい状況でも、私たちは新潟のサッカーを諦めるわけにはいかない。
苦境に立つ今こそ、良いプレーには惜しみない拍手を送ろう。
選手、監督、サポーター、アルビレックスに関わる全ての人たちが、新潟のサッカーを新潟のサッカーたらしめるのだから。

ひとつつでも上の順位で12月6日の再戦を迎えられるよう、みんなで新潟のサッカーを磨き続けるしかない。

「OUR HOME」
燃え上がれ清五郎。
次戦こそ、ビッグスワンで共に勝利を分かち合おう。




-アルビレックス新潟

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マチ神奈川県川崎市在住、東京都調布市出身。
新潟に無縁だったアルビレックス新潟サポーター16年目、家事代行会社入社8年目。
サッカー観戦、本職のお掃除、サポーターとして経験したこと、新潟のよいところを書いてます。